こんにちは。社会保険労務士の倉雅彦です。 最近、「労働基準法が40年ぶりに改正されるらしい」「来年4月から大きく変わる」といった情報を、YouTubeやSNS、ネット記事で目にする機会が増えてきました。

人事担当者の方や、日々働いている皆さんからも、 「もう決まっているんですか?」 「会社として何か準備しないといけませんか?」 といった質問を受けることが多くなっています。

結論からお伝えすると、「改正の議論が公式に進んでいること自体が根拠にはなるが、すべてが決定した段階ではない」というのが、今の正確な整理です。

今回は、「なぜ改正されると言われているのか」「その根拠は何なのか」、そして「どこまでが確定情報なのか」を、できるだけ分かりやすく整理してお話しします。


改正される根拠①

厚生労働省の研究会・有識者会議が実際に動いている

まず最も大きな根拠は、厚生労働省が、労働基準法の見直しを前提とした研究会・有識者会議を設置し、公式に議論を進めているという事実です。

これは単なる噂や民間の提言ではありません。 行政自らが、「現行の労働基準法が、今の働き方に合っているのか」をテーマに、専門家を交えて検討を行っています。

具体的に議論されているテーマの一例としては、

  • 法律上の「労働者」とは誰を指すのか

  • ギグワーカーやフリーランスをどう位置づけるのか

  • 雇用と請負の境界があいまいになっている現状への対応

などが挙げられます。

特に注目されているのが、「労働者性」の判断基準です。 これは約40年ぶりとも言われる大きな論点で、「形式上は個人事業主でも、実態としては労働者に近い人をどう守るのか」という問題意識から議論が進んでいます。

このように、国の機関が正式な場を設けて検討していること自体が、「改正の可能性が現実的にある」ことの根拠になっています。


改正される根拠②

働き方の変化という社会的要請

次に大きな理由として挙げられるのが、働き方そのものが大きく変わっているという点です。

現行の労働基準法は、戦後から高度経済成長期にかけての「会社に出社し、フルタイムで働く」というモデルを前提に作られています。しかし、今の働き方はどうでしょうか。

  • テレワーク・在宅勤務の普及

  • 副業・兼業を行う人の増加

  • フリーランスやギグワーカーという新しい働き方

  • 長時間労働への社会的な問題意識

  • メンタルヘルスや健康確保への関心の高まり

こうした変化に対し、現在の法律が十分に対応できていない場面が増えている、という指摘は以前からありました。

たとえば、 「労働時間といえるのか分かりにくい待機時間」 「テレワーク中の労働時間管理」 「雇用か請負か判断が難しい働き方」

これらは、実務の現場で日々悩みが生じているテーマです。

そのため、法改正の議論は、 「誰かの権利を制限するため」ではなく、「現実とのズレを埋めるため」 に行われている、という点は押さえておきたいポイントです。


改正される根拠③

政府・政策レベルでの公式な方向性

さらに、厚生労働省の労働政策審議会をはじめとする政府の政策決定プロセスの中でも、労働法制全体の見直しが議題として取り上げられています。

これは単発の検討ではなく、 「中長期的に労働法制をどうしていくのか」 という流れの中で行われているものです。

この点からも、「労働基準法が将来的に見直される可能性がある」という方向性自体は、かなり明確になってきていると言えます。


ただし、ここが重要です

「決まっていること」と「決まっていないこと」

ここまで読むと、「じゃあ、もう改正は確定なんですね」と感じる方もいるかもしれません。 しかし、ここで一番大切なのが線引きです。

現時点で言えることは、

  • 「法改正の検討が進んでいる」 → 事実

  • 「具体的な改正内容が確定している」 → まだ

  • 「施行日が決まっている」 → まだ

  • 「来年4月から変わる」 → 断定できない

という整理になります。

国会で法案が提出され、審議され、成立し、公布されて初めて「法律として決まった」と言えます。 今はその前段階の「議論・検討フェーズ」にある、という理解が正確です。


人事担当者・働く人が今すべきこと

では、この段階で私たちは何をしておけばよいのでしょうか。

結論はシンプルです。

  • 不確かな情報に振り回されない

  • 「決定事項」と「検討中」を区別して受け取る

  • 基本的な労務管理を丁寧に行う

これだけで十分です。

法律改正は、ある日突然すべてが変わるものではありません。 必ず準備期間があり、通達やガイドラインも示されます。

正確な情報を押さえ、落ち着いて対応することが、結果的に会社と働く人の双方を守ることにつながります。


まとめ

「改正される根拠」は確かにある。でも、焦る必要はありません

労働基準法改正が話題になる根拠としては、

  • 厚生労働省の研究会・有識者会議が実際に動いていること

  • 働き方の多様化という社会的要請があること

  • 政府・政策レベルで見直し議論が進んでいること

この3点が挙げられます。

一方で、「もう決まった」「すぐ変わる」と断定する段階ではないことも、同時に大切な事実です。

これからも、このブログでは 「今、何が決まっていて、何がまだなのか」 を丁寧に整理しながらお伝えしていきます。

不安をあおる情報ではなく、「現場で役立つ“正確な整理」を一緒に積み重ねていきましょう。